語源を考える〜『わくらば(病葉)』

『わくらば(病葉)』の語源について、日本語源大辞典(前田富祺監修、2005年、小学館)にはこう書かれている。

わくら-ば【病葉】
病気や虫のために朽ちた葉。特に夏頃、紅葉のように色づき枯れた葉。✦初出:匠材集 1597
[語源説]
❶ワクルハ(別葉)の意〈大言海〉。
❷ワは若葉、クラは虫がクラウ意〈和句解〉。
❸ワキカルルワカバの約〈和訓考〉。
※和句解(わくげ)……松永貞徳著。1662年。
※和訓考(わくんこう)……釈如是観著。1826年。

ネット辞書では『わくらば』の語源について記したものはないが、ネット辞書以外のサイトにこんな記述がある。

〚 tak shonai's “Today's Crack” (今日の一撃)〛
《「病葉(わくらば)」という言葉》
……「病葉」の「病」という字を「わくら」と読ませるのは、少なくとも私の手持ちの『大辞林』では、他に例がない。つまりかなり特殊な言葉なのである。
ググってみると、「赤らむ葉(アカラムハ)」が転じて「わくらば」になったとする説と、古語の「わくらばに」(「偶然に、まれに」という意味で、今でも「邂逅」を「わくらば」と読むこともある)が、「夏なのに秋のように散る」という意味合いに通じて「病葉」に転じたという説がある。……

〚日本語はおもしろい〛
《病葉(わくらば)》
……わくらばとは、「別れる葉」から来ているようです。それを「病葉」も当てた。何とも繊細で、詩的な表現ですよね。……

OKWAVE
《 Q 病葉ということばについて》
「病葉」と書いて「わくらば」と読むことばがありますが、病という漢字そのものには「わくら」という読み方はあるのでしょうか?……
《 A みんなの回答》
☆回答No.5 (ベストアンサー)
kine-ore
「赤く変色した夏の木の葉を、アカラムハ(赤らむ葉)といった。その省略形のアカルバ(赤る葉)に子音[ w ]が添加されてワカラバになり、「カ」が母交〈※母音交替の略?〉[ a → u ]をとげて「クラ」になったため、ワクラバに転化した。……([ w ]の添加では)グワイ(具合)・バワイ(場合)・ユワミ(湯浴み)ということがある」(田井信之「日本語の起源」)……


『わくらば』の初出は室町時代とされているが、万葉集1618に「玉に貫き消たず賜らむ秋萩の末(うれ)和々良葉尓(わわらばに)置ける白露」という歌があり、この『わわらば』を岩波古語辞典は「ほつれ乱れた葉。破れそそけた葉」の意としているので、語形の酷似、意味の共通性からみて、この『わわらば』が『わくらば』に変化したと考えて良いのではないか。
『わわらば』が『わくらば』になったのは『々』が『久』と誤読されたためではないかと思う。
『わわらば』の『わわ』は「乱れる」の意の形容詞『わわし』の語幹で『ら』は状態を示す接尾辞、『ば』はもちろん「葉」の連濁と考えて良いだろう。