詩 小鉄への挽歌

  ☆小鉄への挽歌

こてっちゃん…と呼んでみる
うららかな春まっさかりの陽ざしのなかに
消えていったおまえ

ぼくの腕のなかで
おまえは眠りながら
はかなくなって行く
ぼく達のわかれは
きっとそんなふうに訪れると
ぼくはずっと信じてきたというのに

こてっちゃん
エメラルドグリーンのその瞳に
じっと見つめられたことも
タンポポのわた毛のようだった柔らかな毛に
そっと触れたことも
すず虫のような透明な声がききたくて
ギュッとだきしめたことも
いまでは美しい夢を見ていたかのようだ

くる日もくる日も
おまえの姿はあらわれず
いたずらに憶い出だけが
へやの中によどんでいる

どうしてなんだい…こてっちゃん
こんな別れかたはしたくなかった
さよならのひと言も言わせてくれず
いってしまったおまえ

もういちど
みどりの土手をかけぬける
おまえの姿が見たかった
もういちど
おまえの9.5kgの体重を
この膝にうけてみたかった
もういちど
舌をしまい忘れたままで眠っている
おまえの寝顔を見ていたかった

こてっちゃん…と
何度つぶやいてみても
おまえに逢えるわけではないが
それでもやはり言ってみる
こてっちゃん…と

詩 わかれ

  ☆わかれ

いちまいの
みず色の かみの上に
ひとつの
すきとおるような かなしみがういていた

みず色の かみは
ぼくの にがい海のなかで
ぼんやりと ゆれていた

つめたい緊張が
ふゆの朝日のような
まぶしさだった

あなたが ほろびさろうとする ひととき
ぼくの海は
どれだけの血に そまらねば ならないか
どれだけの罪に たえねば ならないか

いつか
ぼくの海の
見えない岩かげに
あなたの
苦しげな ひとみを
おもう時

ぼくは そこで
どんなことばを
殺そうとするのだろうか

詩 悔恨

  ☆悔恨

あなたの中に
あの日の
あの わずかばかりの時間は
どんな形に のこっているのだろうか
どんなメロディーを しらべているのだろうか

すぎさった秋のかずなど
いまさら かぞえたくもない
ぼくは
ただ
雨がふるたびに
あの日の あなたが
すこしづつ とろけて行くのを
くらい窓ごしに
じっと 見つめているだけだ

あの日の
みじかすぎた時間
ぼくらを
どれほど多くの
永遠がつつんでいたか

いかに幼かったにせよ
気づかない
ぼくでも
あなたでも なかったのに

なにが まちがっていたのか
ぼくらは ついに
あの出会いの うちに
ほんの ひとかけらの
意味をすら
つくらずにしまった なんて…

露出形・被覆形の起源について⑨

Ⓖ露出形 o 〜被覆形 a 対応型

☆siro(白)〜sira
       sira-ka(白髪)
       sira-kasi(志邏伽之=白樫)
       sira-katuku(白香付)
             註、意味未詳。枕詞。
       sira-kÏ-wonö(新羅斧)
       sira-ku(白く)
           註、下二段活用の動詞。
       sira-kumo(白雲) 
       sira-sagi(白鷺)
            註、ギの甲類・乙類は不明。
       sira-sugë(白菅)
       sira-tama(白玉)
       sira-tutuzi(白管仕=白躑躅)他
  ※有坂秀世はシロはシロシという形容詞の語幹になっており、形容詞の語幹には被覆形が使われるので、シロもシラも被覆形であるとしている。しかし、その有坂秀世もシロ・シラの露出形を示し得ていないので、シロを露出形と考える。
 
      

露出形・被覆形の起源について⑧

Ⓕ露出形 ï ( i )〜被覆形 ö ( o )対応型

☆awi(藍)〜awo
       awo(青)
          註、上代においては複合語の中で使われた例が多いが、露出形として使われた例もある。
       awo-unafara(青海原)
       awo-uma(青馬)
       awo-kaki(青垣)
       awo-kusa(青草)
       awo-kubi(青衿)
       awo-kumo(青雲)
       awo-koma(青駒)
       awo-si(青し)
       awo-na(青菜)他

☆isi(石)〜iso
      iso-kagë(石影)
      iso-nö-kamï(石上)

☆kÏ(木)〜kö
      kö-kufa(許鍬=木鍬)
      kö-daka-si(許高し=木高し)
      kö-dakumi(木工=木匠)
      kö-dati(虚立=木立)
      kö-danë(樹種)
      kö-daru(木足る)
      kö-dutafu(木伝ふ)
      kö-tumi(糞=木積)
      kö-nö-ma(許の間=木の間)他

kofï(恋)〜kofo
       kofo-si(故保斯=恋し)
           註、コヒシの古形。

☆ni(荷)〜no
      no-saki(荷前)

☆fï(火)〜fo
      fo-kë(火気)
      fo-taru(螢=火垂る)
      fo-tofori(熱=火通り?)
      fo-naka(本中=火中)そ
      fo-nasi-agari(褒那之阿餓利=火無し葬?)
      fo-nö-ikaduti(火の雷)
      fo-nö-fö(火の穂)
      fo-fë(火瓮)
      fo-mura(火群)
     ❂fo-kagë(火影)他

☆fï(干)〜fo
     ❂fo-su(乾す)

☆mari(鋺)〜marö
       marö-kasu(団す=円かす)
             註、カスは「〜にする」の意の補助動詞
       marö-karu(渾沌る=円かる)
       marö-si(円し)
       marö-ne(丸寝)
       marö-bu(転ぶ=円ぶ)

☆yömï(黄泉)〜yömö
        yömö-tu-ikusa(黄泉軍)
        yömö-tu-kuni(黄泉国)
        yömö-tu-firasaka(泉津平坂)
                 註、このヒラは「平」の意味ではなく「崖、傾斜地」の意味。
        yömö-tu-fëgufi(黄泉戸喫=黄泉瓮食)
       ❂yömö-tu-siköme(黄泉醜女

☆woti(遠)〜wotö
       wotö-tu-fi(遠つ日=一昨日)
       wotö-tösi(遠年=一昨年)

露出形・被覆形の起源について⑦

Ⓔ露出形 ï ( i )〜被覆形 u 対応型

☆isi(石)〜isu
      isu-nö-kami(石上)

☆kamï(神)〜kamu
       kamu-agaru(崩る=神上る)
       kamu-oya(神祖)
       kamu-gakari(神懸)
       kamu-kaze(神風)
       kamu-gatari(神語)
       kamu-kafi(神穎)
       kamu-kara(神随=神柄)
       kamu-kï(神樹)
       kamu-kudasu(神下す)
       kamu-kötö(神言)他

☆kï(木)〜ku
      ku-da-mönö(菓=木だ物)
            註、ダは連体助詞。

☆kusi(酒=奇し)〜kusu
     ※このkusiがkusi→kui→kÏ となってミキ(神酒)・クロキ(黒酒)のキになったと考える。
          kusu-si(奇し)
          kusu-si(薬師)
          kusu-basi(奇ばし)
          kusu-ri(薬=奇り)
              註、クスルという四段動詞があったと仮定し、その連用名詞形とみる。

☆kuti(口)〜kutu
       kutu-bami(轡=口食み)

☆kuri(栗)〜kuru
       Kuru-su(栗栖)

sati(幸)〜satu
       satu-fitö(幸人=狩人)
       satu-ya(得物矢=幸矢)
       satu-yumi(幸弓)
       satu-wo(薩雄=幸男=狩人)

☆ti(鉤=釣針)〜tu
         tu-ru(釣る)

☆tukï(月)〜tuku
       tuku-yo(月夜)
       tuku-yu-mi(月弓=月ゆ神)
       tuku-yö-mi(月読=月よ神)
             註、ユ及びヨは連体助詞か。ツクヨミは月夜見と書かれた例もあり、ヨが月夜見なら甲類、月読なら乙類だが不明。 

☆tukï(槻)〜tuku
       tuku-yumi(菟区喩瀰=槻弓)

☆tubï(粒)〜tubu
       tubu-tatu(粒立つ)
       tubu-ra(円=粒ら)
            註、ラは接尾辞。アカラ(赤ら)のラに同じ。
       tubu-re(禿れ=粒れ)
      ❂tubu-gire(粒切れ)
      ❂tubu-gin(粒銀)
      ❂tubu-kokasi(粒転し)
      ❂tubu-si(腿=粒し)
      ❂tubu-su(潰す=粒す)
      ❂tubu-tubu(粒粒)
      ❂tubu-te(礫=粒て)他
           註、テは「その類のもの」を示す接尾辞。

☆ni(瓊)〜nu
      nu-na-tö(瓊響=瓊な音)
           註、瓊は美しい玉。ナは連体助詞。
      nu-bokö(瓊矛)
           註、玉で飾った矛

☆mï(身)〜mu
     mu-kafari(質=身代)
     mu-kuro(身中=身体)
          註、クロはカラダのカラの母音交替形で元は死体の事。
     mu-zane(正身=身実)
     mu-nagi(鱓=身長=鰻)
          ナギはナガと同源とする山口佳紀氏の説に従う。
    ❂mu-ku(剥く=身く)
    ❂mu-kuru(剥る=身刳る)